要旨編


 

要旨1 生駒知子・志村明彦(1993)「英語から日本語へのプラグマティック・トランスファー:「断り」という発話行為について」『日本語教育』79 号 日本語教育学会 41-51
 

 本研究では、アメリカ人日本語学習者の日本語による「断り」という発話行為の中に、英語から日本語へのプラグマティック・トランスファーがあるかを、談話完成テストを使って調査した。意味公式を発現順序・発現回数・具体的内容の3点から分析した。その結果、意味公式の発現順序ではとくにトランスファーの現象は見られなかったが、意味公式の発現回数や内容においては、幾つかのトランスファー現象が見られた。中でも有害なトランスファーとして、相手に失礼だと誤解を受ける可能性のあるトランスファーをいくつか指摘した。本研究の結果は、アメリカ人日本語学習者に、日本人を相手にどのようにすれば、失礼にならずに断ることができるかを教えるのに役立つと思われる。
 
要旨2 藤森弘子(1996)「関係修復の観点からみた「断り」の意味内容―日本語母語話者と中国人日本語学習者の比較―『大阪大学言語文化学』Vol.5 6-17
 本研究では、「発話行為」として「断り」行為を取り上げ、90%以上の被験者の発話に見られた「弁明」を儀礼的構成素の一つとして捉え、談話完成テストによる調査法で日本語母語話者(JJ)、中国人日本語学習者(CJ)、中国語母語話者(CC)を被験者として実施したものについて、JJ,CJ,CCの「弁明」の意味内容の使用を関係修復の観点から考察した。
「弁明」の意味内容を五つの方略型(率直型、曖昧型、嘘型、延期型、回避型)に分類した。結果は、CJの「率直型」「嘘型」の使用率JJ、CCより多く、JJが「曖昧型」の使用率最も高い、CJはCCと同じ程度の使用率である。CLの発話では十分関係修復したと感じられない、誤解の原因になると指摘している。
 
要旨3 岡田, 安代、杉本, 和子(2001) 外国人の断り行動と日本人の評価 愛知教育大学研究報告, 教育科学編. 50, 153-160.
本研究では日本語学習者の行為を観察し、接触場面において学習者の行為を日本人がどう評価するのか、また、学習者の日本語能力によって変化するのかという点について、「断り」行為を通して探していた。ロールプレイを用いて、依頼に対する学習者の断り行動をテープに録音し分析した。その結果、日本語学習者の断り行動を受け止め、断り表明、関係修復の3段階にわけ、学習者の日本語レベルの違いによる行動の差を見てきた。日本人の評価について、断りによる不快度は「断り表明」型が一番高いが、「受け止め」もしくは「関係修復」を行うことによって、その不快度は低くなる。また、上級学習者と初級学習者では評価の基準が異なった傾向があった。また、評価は男女によって差が見られ、女性は初級学習者に対して許容が見られた。
 
要旨4 西村史子(2007)「「断り」に用いられる言い訳の日英対照分析」『世界の日本語教育』17,93-112
 本研究は、勧誘の断り談話における日英対照研究で、特に被勧誘者の言い訳を中心に分析したものである。本研究では、日本、ニュージーランド(以下NZ)で友人同士のペア、各32組、30組から平均48秒、67秒の談話をロールプレイの手法で収集し、書き起こししたものを分析資料とした。その結果、両資料で同じような言い訳、勧誘方法が観察されたが、相違点も見られた。日本資料では言い訳は断りの方便であり、勧誘者は言い訳の内容によって臨機応変に交渉するというよりは、そこで更に再勧誘するか、勧誘を断念するかの二者択一的に行動したように解釈できる。言い訳が方便でなく歴とした情報を伝えているかどうかはそこで詳細を聞き込むしかない、このため日本資料でより詳細説明が生じたと思われる。これに対しNZ資料では言い訳を字面通り受け取り、そこから双方に都合がよい妥協案を探る方法で会話が進められたと考えられる。日本資料で特に「体調不良」が多く使われたのは、それが翻しにくい状況であり、かつ断りの方便として常套化している可能性がある。
 

 

要旨5 村井巻子(2009) 「「断り」行為において好感と不快感を決定する要因は何かー『スピーチ・レベル』と『方略』の二つの方策から」筑波大学地域研究 (30), 17-30,

 

本研究では、断り手が取る方策としての「方略」と「スピーチレベル」を取り上げ、両者がどのように複合的に影響するのかについて断られる側の立場に立ち「相手に好感を与える断り方とはどういうものか」という視点から調査を行った。2005年1月~5月に立教大学及び筑波大学の学生を対象に、アンケート調査票に「方略」と「スピーチレベル」を組み合わせた断り文を設定し、対象者に好感不快感を7段階評定で示してもらった。その結果A:相手に好感を与える方策は、場面(勧誘、依頼)については、差が認められなかった。「断り」行為において方策は好感や不快感などに影響を与えないということが明らかになった。結果B:相手に好感を与える方策は、対人関係によって変わることが示唆された。上下関係では「スピーチレベル」が決定的な意味を持つことが示された一方、親疎関係においては「方略」における詫びと「理由」が重要であることが示された。
 
 
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